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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1923号 判決

昭和五五年(ネ)第一八三五号事件控訴人、同第一九二三号事件被控訴人 (第一審被告) エノモト工業株式会社

右代表者代表取締役 榎本芳雄

右訴訟代理人弁護士 岡田和義

同 太田忠義

同 堀弘二

同 増井俊雄

右一八三五号事件被控訴人、右一九二三号事件控訴人 (第一審原告) 本間金属工業株式会社

右代表者代表取締役 本間博

〈ほか一一名〉

右本間金属工業株式会社以下一二名訴訟代理人弁護士 松家里明

右同 荻原静夫

右同 田中茂

主文

一  第一審原告本間金属工業株式会社、同本間弘一、同本間博の本件各控訴及び第一審被告の第一審原告本間金属工業株式会社、同南部歌子、同南部弘幸、同南部ふぢの、同楠下キヌ、同楠下行男、同楠下年弘、同中田孝美に対する本件各控訴を棄却する。

二  第一審被告の第一審原告竹内博、河内キクヱに対する控訴に基づき、原判決中同第一審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

1  第一審被告は、第一審原告竹内博、同竹内キクヱに対し、各金一四六五万八一三三円及びこれに対する昭和五二年九月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  右第一審原告らのその余の請求を棄却する。

三  第一審原告本間金属工業株式会社、同本間弘一、同本間博のした控訴の費用は同第一審原告らの、第一審被告のした第一項の控訴の費用は第一審被告の各負担とし、第一審原告竹内博、同竹内キクヱと第一審被告との間の訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その二を同第一審原告らの、その余を第一審被告の各負担とする。

四  この判決の第二項1は、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  昭和五五年(ネ)第一八三五号事件

1  控訴人

(一) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人らの各請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

二  昭和五五年(ネ)第一九二三号事件

1  控訴人本間弘一、同本間博

(一) 原判決中右控訴人両名に関する部分を取り消す。

(二) 被控訴人は控訴人本間弘一に対し三〇〇万円、同本間博に対し二〇〇万円と右の各金員に対する昭和四三年六月九日から右支払済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四) この判決は仮に執行することができる。

2  控訴人本間金属工業株式会社

(一) 原判決中右控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人は右控訴人に対し二三三二万九九八六円とこれに対する昭和四三年六月九日から右支払済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四) この判決は仮に執行することができる。

3  被控訴人

(一) 控訴人らの本件各控訴を棄却する。

(二) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

第二当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の誤記等の訂正

1  原判決中「キュポラ」とあるのを全部「キューポラ」と改め、原判決五枚目表一行目の「水冷式」の次に「五トン」を加え、同二行目から三行目にかけての「、基礎以外の全工事一式」を「の新設にかかる全工事一式(但し基礎工事を除く。)」と改め、同三行目の「水冷ジャケット部」の前に「本件キューポラの」を加える。

2  同裏二行目から三行目にかけての「爆発物」を「右爆発による落下物」と改める。

3  同六行目から九行目までを次のとおり改める。

「1 被告が納入した本件キューポラ自体には次のような欠陥があった。

(一)(ジャケット部鉄板の厚みの不足) 本件キューポラのジャケット部の鉄板の厚さは、前記約定にもかかわらず、一〇ミリしかなかった。

(二)(ジャケット部の溶接不良) 右ジャケット部の各鉄板相互間及びこれと炉本体との間の各溶接は、」

4  同六枚目表二行目の「内筒に」の次に「肉厚」を加え、同三行目の「不整である」を「不整のまま溶接されている」と改める。

5  同七枚目裏八行目から九行目にかけての「右損害」を「原告会社が右のとおり名誉及び信用を毀損されたことにより受けた損害」と改める。

6  同八枚目表二行目から三行目にかけての「鋳造部門のみで一か月の総収入は一五〇〇万円であり」を「一か月一五〇〇万円の生産を挙げていた鋳造部門だけでも」と、同一〇枚目表一〇行目の「接衝」を「折衝」とそれぞれ改め、同一一枚目表一行目の「事故当時」の次に「収入として」を加え、同一〇行目の「逸失利率」を「逸失利益額」と、同一二行目の「一一年」を「一一年目」とそれぞれ改め、同一二枚目表二行目の「ふぢの」の次に「の」を、同三行目の「慰藉料を」の次に「順次」をそれぞれ加える。

7  同一三枚目裏一二行目の「事故の原因は、」の次に「原告の過失にある。すなわち本件事故発生前、」を加える。

8  同一四枚目裏五行目「原告」の次に「ら」を加え、同六行目から七行目にかけての「二本の温度計も正常に機能していた」を「ジャケットの給水管及び排水管に取り付けられていた二本の温度計も本件事故直前まで正常に機能し、ジャケット内の水温の異常を示していなかった」と改める。

二  当審で付加した主張

1  第一審原告ら

(一) 本件爆発の原因について

(1) 本件爆発の原因は、本件キューポラのジャケット部に極めて劣弱な不良熔接個所があり、この熔接個所の溶着金属部が熱荷重の作用により時間疲労の現象を起こして著しく破断されやすい状態になっていたところ、地金の投入等の衝撃によって破断し、その破断は相当範囲に拡大波及し、ジャケット内部に充満していた冷却水が漏洩するとジャケット部の水の循環が止まり、ジャケットは冷却作用を停止し、炉内の高温で過熱されると同時に、炉内に放出された冷却水とジャケット内の残水が瞬時に蒸気と化して容積が一瞬に増大し(このように水が一挙に炉内に洩れて瞬時に蒸気化した場合は、その前に炉底から徐々に水洩れするという現象はみられない。)、本体爆発となった。前記熔接個所の破断は、ジャケット内筒と羽口円筒の熔接部の剥離によるもので、これによりジャケットから炉内への急激な水漏れを起こしたものといえるが、その際溶解作業を開始してから四時間を経過していたので、本件キューポラの炉内側鉄板すなわち内筒板の裏張り煉瓦(右内筒の内側すなわち鉄類を溶解する側に張り付けられた耐火煉瓦)はスラック状態になりガラス状で壊れやすく、水の漏洩があるとこれを支えにくくなっており(すなわち、炉内は操業時に最高摂氏一七〇〇ないし一八〇〇度に達し、後述のとおり右裏張り煉瓦の接するジャケット内筒板の炉内側の面でも最も低くみて七〇〇ないし八〇〇度に達しており、右時間の経過を考えると、煉瓦は当然右のような状態となっている。)、そして炉内の火炎に近い内筒板の熔接個所に劣悪な部分があって高熱(右七〇〇ないし八〇〇度)にさらされると、熔接部の強度はさらに弱くなり、このようにして内筒板下部の熔接部分の最弱部が破断し、その破断が拡大波及し、ここから前記のとおりジャケットの水が炉内に一挙に放出され、蒸気化し、爆発するにいたったものである。

右事実関係のうち問題と考えられる熱荷重と時間疲労の点につきふえんすると、次のとおりである。

(イ) 本件キューポラのジャケット部のような構造を有する内筒板と外筒板に温度差が生ずれば、熱膨張量の差により熔接部の溶着金属は、張・圧縮の交番荷重や個所によっては曲げ荷重または剪断荷重を繰り返して受け、このような荷重(熱荷重)が操業の都度ジャケットの熔接部に作用すれば、原判決の事実摘示にあるような弱体不良な熔接部は、時間疲労の現象を起こして破断しやすくなる。

(ロ) 右ジャケット部の内筒板(炉内側鉄板)と外筒板の温度差を検討すると、シャワー式の二トンキューポラにおいて炉内に六〇ミリのSIC煉瓦(炭化けい素質煉瓦)を裏張りして操業した際の測定結果では、ジャケット式キューポラのジャケットの位置に相当する位置にある還元帯部のSIC煉瓦の裏側(外側)の温度は、摂氏七〇〇度ないし同八〇〇度(以下摂氏の表示を省略する。)である。本件キューポラの裏張り煉瓦は、ロウ石煉瓦であったから、右シャワー式二トンキューポラの六〇ミリSIC煉瓦の場合と比較してはるかに高温であったろうとおもわれるが、仮に控え目に八〇〇度とみて考えると、排水温度が七〇度であったから、本件キューポラの内筒板の温度は、その炉内側の面で八〇〇度、冷却水側の面で七〇度で平均約四三〇度であり、その外筒板の温度は、外気温が約三〇度であったから、その外気側の面で約三〇度、冷却水側の面で七〇度で平均約五〇度となり、右内筒板は、右外筒板に比べて約一〇倍もの高温に達していた。したがってこの温度差による熱膨張量の差により、本件キューポラのジャケット部の前記弱体、不良な熔接個所に熱荷重がかかり、同個所に時間疲労の現象が生じていたことは明らかである。

(2) 第一審被告主張の爆発原因に対する反論

(イ) 事故当日の本件キューポラの操業者について

事故当日の本件キューポラは、専門的知識と豊富な経験を有する本間博常務の指揮に基づいて操業がなされたものであり、また作業に従事した者はいずれも溶解作業について十分な知識と経験を有する者であった。当日、給排水設備のバルブの操作、出湯温度及び給排水温度のチェック、風量及び風圧の測定、材料配合、かけまえ(溶解材料の炉内への投入)等の具体的作業を主に行ったのは、第一審被告主張のとおり竹内憲治であるが、同人は、本間常務の直接の指揮を受け、同常務を補佐して行ったのである。右竹内は、第一審原告会社に入社して日が浅かったとはいえ、県立の工業高校の金属科を卒業し、尼崎の鋳物工場で二年程作業管理者として勤務中であったのを、第一審原告会社がその能力を見込んで採用したものであって、溶解作業に関する知識と経験を有し、同作業の管理行為においてはすぐれた能力を有していたものである。

(ロ) バルブ操作について

第一審被告主張の十三橋警察署司法警察員鶴羽豊四郎作成の昭和四二年七月三一日付検証調書(以下、「鶴羽検証調書」という。)に排水パイプに取付けてあるバルブにつき同被告主張どおりの記載のあることは認めるが、右は検証を実施した警察官の錯覚に基づくものである。すなわち右バルブは、内ねじ式の構造を持っているため、その外観からは開閉の状態を判断することができず、むしろ常に閉の状態にあるように見られるものである。右バルブの開閉の構造は、バルブの取手をそこに記されている「O」の方向(左の方向)に回転させ、それができなくなったところが全開の状態となっている。したがって右検証調書に記載されている同バルブを回転させた際の状況は、同バルブが全開に近い状態にあったことを明確に物語るものである。

(ハ) 温度計の故障について

鶴羽検証調書に第一審被告主張の各温度計につき同被告主張どおりの記載のあることは認めるが、第一審原告会社が右の各温度計の返還を受けて当時調査したところによると、給水管に取付けてあった温度計は、外観上損傷がなく、排水管に取付けてあった温度計は、ガラス管の首部が破損して目盛板の脱落が見られたが、いずれも下部を加熱、冷却すれば、中のアルコール柱が正常に上下したから、第一審被告が主張するような故障はなかったものである。

(ニ) 送水不足によるジャケット内における蒸気圧の発生について

第一審被告主張のジャケットへの送水不足は起こり得ない。すなわち本件キューポラのジャケットへの送水は、送水ポンプと併せて水道によって並行してなされており、仮に送水ポンプが第一審被告主張のキャビテイション現象により送水不能となっても、水道による給水が継続されるのであるから、ジャケットへの送水不足は生じないのである。第一審被告主張の水しぶきと蒸気のまじったようなものが地下水槽に注いでいた時期が本件爆発事故発生のかなり前からであったことを裏付ける証拠はないし、右地下水槽の水温が第一審原告ら主張の時点で五三度であったことは、知らない(第一審原告らが原審で右水温が五三度であることを前提とする主張をしたのは、第一審被告が主張する排水パイプに取付けてあるバルブの閉鎖と地下水槽の水温が五三度であることとが両立しない関係にあることを指摘しただけである。)。

(二) 第一審原告会社の従業員堂前庄八、常務取締役本間博(第一審原告)は、本件爆発事故発生の直前(すなわち右両名が本件キューポラとパイプで連結されている除塵装置からの排水量の少ないのを見て、その原因を調べるため本件キューポラの給排水用の地下水槽が設置されているポンプ室に入り、本間博が堂前庄八に持って来させた懐中電灯で右水槽に排出されている本件キューポラのジャケットからの排水が水しぶきと蒸気の混ったようなものであるのを確認した段階において)、初めて本間博が異常状況を知り、直ちに本件キューポラの送風機のスイッチを切るため、右ポンプ小屋の出口まで来たとき、本件爆発事故が発生した。したがって右両名には右事故発生に対する予見可能性と結果回避可能性がなく、したがって、第一審原告会社には本件爆発事故につき相殺されるべき過失はない。

(三) 第一審原告会社が本件爆発事故により受けた損害のうち休業損の額は、少なくとも三五四万円である。すなわち、第一審原告会社は、昭和四二年一月から同年七月までの間に、一か月平均一一八トンの鋳物を鋳物部門で生産してトン当り一〇万円で販売し、売上額の三割を下らない額の利益を得ていたものであるから、本件事故により休業を余儀なくされた同年七月二九日から同年八月二八日までの一か月間においても少くとも前記先行の七か月の平均月間利益と同額の利益を収めることができたものである。

(四) 第一審原告本間弘一、同本間博の損害は、第一審被告の第一審原告会社に対する不法行為と相当因果関係があるものであり、第一審原告会社の損害とは別個のものであるから、これに対する賠償がなされるべきである。

2  第一審被告

(一) 本件爆発の原因について

(1) 本件爆発は、第一審原告会社の操業上の過失によるものである。すなわち本件爆発は、原告会社が未成年で未熟な訴外亡竹内憲治を本件キューポラの操業管理者としていたため、同訴外人が本件キューポラの給排水管のバルブ操作を誤り、しかも右給排水の水温を測定する温度計が故障していて給排水の温度管理が不可能な状態で、本件キューポラによる溶解作業をなし、このためそのジャケット部の冷却水が循環不全(冷却水のジャケットへの送水不足)となってジャケット内に蒸気が発生したが、これを看過して右作業を継続したためジャケットの冷却効果が落ちてジャケット部の炉内側鉄板の裏張り煉瓦が溶失してジャケット部炉内側鉄板が直接炉内の一七〇〇度ないし一八〇〇度の高温にさらされることとなり、ジャケット内の既に一〇〇度をこえている熱湯は急激に蒸気化してジャケット内の蒸気圧は急上昇し、これと温度上昇によるジャケット部炉内側鉄板の強度の低下のため、本件キューポラのジャケットは、その内側から炉内に向けて爆発するに至ったものである。

右事実関係のうち問題と考えられる諸点につきふえんすると、次のとおりである。

(イ) 本件キューポラの操業管理者選定の誤りについて

本件キューポラのようなジャケット式水冷キューポラの操業においては操業管理者が必要であり、この者は、キューポラの操業についての熟練した技術者でなければならないのに、原告会社が本件キューポラの管理責任者とした前記竹内憲治は、当時未成年(一九歳一一月)で、しかも原告会社に入社して僅か三、四か月の経験を持っただけの者であった。

(ロ) バルブ操作の誤りについて

本件キューポラのジャケットの排水パイプに取付けられたバルブは、鶴羽検証調書において、「バルブは閉じられたままの状態で約三〇度の角度に曲り」「三〇度に曲った排水用バルブを曲ったままの状態で左(開く方)へ廻すと僅かに動くのみで完全に開くことができなかった」と記載されているところ、右検証をした警察官は、右のバルブが内ねじ式の構造のもの(スリースバルブ)であることを承知の上で右記載をしていること、及び右記載にある同バルブが右検証時完全に開かなかったのは同バルブが三〇度に曲がっていたためであることからすれば、本件爆発事故発生前から完全には開いていなかったことが明らかである。このことは、右検証後十三橋警察署で排水管から右バルブを切り取り、その内部状況を確認した際、五分の一かもう少し大き目ぐらいしか開いていなかったことを現認している証人のあることからも言い得るところである。

(ハ) 温度計の故障について

ジャケット式キューポラの操業については、給排水温度の管理が不可欠の最重要事であり、そのためには給排水温度計が正常に作用するかどうかを確認し、排水温度をチェックする必要があるところ、鶴羽検証調書によると、昭和四二年七月二九日の右検証時「二本のパイプの内給水用のパイプに取付けてあった温度計は三三度で、又排水用のパイプに取付けてあったのは四〇度の位置で停止し、この温度計は二本共故障していた」ことが認められ、他方、温度計は下部に傷がつくと温度表示は破損時より上に動いて作動しなくなり、上部に傷がつくと温度表示は変わらないものであるが、本件爆発事故発生当時本件キューポラは排水温度を七〇度前後にして操作されていたものであるから、当時右排水パイプに取付けてあった温度計が正常に機能していて右事故により故障したものであれば、故障個所の如何にかかわらず、右温度計の表示は七〇度以上の温度を表示しているはずであり、そうでないところよりすると、右温度計は、当日操業開始前から故障していたものというべきである。

(ニ) 送水不足によるジャケット内での蒸気圧の発生について

本件爆発の原因は、ジャケットへの冷却水の送水不足(ジャケット部の冷却水の循環不全)により、ジャケット内に蒸気圧が発生したためである(ジャケット内に蒸気圧が発生する原因は、右の送水不足かジャケットからの水漏れかのいずれかであるが、本件の場合水洩れでないことは後記(2)の(ハ)の事情から、送水不足であることは前記(ロ)の事情から、いずれも明らかである。)。このことは、右爆発のかなり前から本件キューポラのジャケットからの排水管の排水口より、蒸気というよりは水しぶきと蒸気のまじったようなものが噴出していたこと、右爆発の二一時間後の段階で、右排水管を通して排出された右ジャケットからの排水の注入している地下水槽の水温が五三度であり(このことは第一審原告らも原審で認めている。)、右爆発事故発生時には六一・四度以上であったこと等から明らかというべきである。

なお、第一審原告らは水道による給水の継続があるためジャケットへの送水不足が生じることはないと主張するが、その主張のようなことはありえない。すなわち、送水ポンプの圧力(一平方センチメートル当り二・一ないし二・二キログラム)は水道水の圧力(前同一・一ないし一・七キログラム)より大きいから、送水ポンプが作動している限り水道水が送水管に流入するはずがなく、かつ送水ポンプが送水不能になれば、ジャケット内は加熱されて蒸気が発生し、蒸気圧が急上昇することになるところ、このような状態になれば水道による送水もまた不能である。事故前、排水口には蒸気まじりの熱湯が噴出していたのであるから、水道による送水はなかったことが明白である。

(2) 第一審原告ら主張の爆発原因に対する反論

(イ) ジャケット部の不良熔接について

ジャケット式キューポラのジャケット部の熔接は、冷却用水がジャケット部から洩れることを防止する目的でするもので、それ以上でもそれ以下でもない。本件キューポラの送水管によるジャケット部への送水、排水管による同部からの排水という冷却系は、大気圧下で温水が流動するものであり、したがって右ジャケット部は、いわゆる開放容器であって、圧力の発生を予想したいわゆる圧力容器ではなく、したがって本件キューポラの如き水冷式キューポラについては、構造強度について法規による規制がないのである。第一審原告らは、本件キューポラのジャケット部の熔接について水洩れ防止以上の堅牢さを要求しているものであって不当であり、第一審被告の熔接程度で十分であることは、昭和三四年から同四五年までの間に第一審被告が製作販売した四五基の水冷式キューポラがすべて本件キューポラにおけると同様の片面熔接のものであるのに、爆発事故を起こしたものは、本件キューポラ以外にはないことからも明らかである。

(ロ) 熱荷重について

伝熱学の理論計算によると、本件キューポラの操業中、その内筒板の温度は、冷却水に接する側がジャケット内の水の平均温度より二二・五度高く、炉の裏張り煉瓦に接する側が冷却水に接する側より三・五六度高いだけであり、他方、外筒板の温度は、ジャケット内の水温とほぼ等しいので、外筒板と内筒板との温度の差は、二〇度ないし二五度であり、正常な運転がなされている限り、第一審原告らの主張するような極端な温度差は生じないのである。

(ハ) 冷却水の炉内への漏洩について

本件キューポラにおいて、ジャケット部から炉内に冷却水が漏洩したときは漏洩水は炉内に張られた煉瓦の間隙を伝って炉底から洩れるはずである。本件キューポラは、その操業時に一分間四〇〇ないし四五〇リットルの給水がそのジャケット部に対してなされるので、ジャケット内の冷却水の循環の停止が発生するには給水量以上の水の漏洩のあることが前提となるところ、かかる大量の漏水があれば、当然炉底からの水洩れが生ずるのに、本件ではこれがみられないのであるから、第一審原告らの主張する爆発原因に直結するジャケット内冷却水の炉内への漏洩は認められない。

(二) 第一審原告らの前記1の(二)ないし(四)の各主張については、いずれも争う。

なお昭和五三年までに第一審原告南部歌子は遺族補償年金、遺族特別年金として計九八一万一〇五七円を、第一審原告楠下キヌは右各年金として計七〇三万九三八〇円を受領しているところ、これら年金は右第一審原告らの慰藉料と(逸失利益のみならず慰藉料とも)損益相殺されるべきである。

三  当審における新たな証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、請求原因1ないし4(原判決四枚目表一二行目から同裏一一行目まで)の事実(ただし、同1のうち原判決四枚目表末行「原告」の前に「昭和四二年七月二八日当時」と加え、同裏三行目「ある」を「あった」と訂正した事実)が認められる。

請求原因一5の事実は当事者間に争いがない。

二  第一審被告が第一審原告会社に対し、本件キューポラすなわち大阪鋳鍛型水冷式五トン冷風熔銑炉一基、及び機械投入装置一基、煙突湿式除塵装置一基の新設にかかる全工事一式(ただし基礎工事を除く。)を販売し、昭和三六年七月ころこれを第一審原告会社田川工場に納入したこと、昭和四二年七月二八日午後六時一〇分ごろ、右工場内に設置された本件キューポラが突然爆発したことは、当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》を合わせると、右爆発事故により、第一審原告会社の従業員である竹内憲治、南部喜弘、楠下方が死亡し、第一審原告本間博、杉本豊蔵、田中進、巴一男、寺島駒男が受傷したこと、また爆発により本件キューポラの炉内のコークス、鉄屑等、あるいは本件キューポラの破れた鉄片等が周辺に飛散し、第一審原告会社の工場建物、設備を損壊し、かつ工場周辺の大阪市東淀川区田川通五丁目一五番地大原恵子方ほか二九戸の民家、工場の屋根、窓ガラスなどを損壊したことが認められる。

三  本件キューポラの構造について、本件の爆発事故との関連を中心にして、検討する。

《証拠省略》を合わせると、次の事実が認められる。

本件キューポラは、鋼板(鉄板)でつくられた円筒状の内径九九〇ミリメートル(以下、ミリであらわす。)の円筒の内側(炉内側)に耐火れんがを張り、炉内に溶解する原料とコークスを装入し、羽口から炉内に空気を送りコークスを燃焼させて原料を溶解し、下部の出湯口から流出する溶湯を採取するといういわば小型溶解炉であり、右内筒のまわりを同じく鋼板でつくられた外径一二八〇ミリの水洗ジャケットで囲み、操業中はジャケット内に水を流しつづけて内筒を冷却する(水冷方法としては、ジャケット式とシャワー式があるが、本件キューポラはジャケット式を採用しており、かつ本件キューポラ販売当時はジャケット式が一般的に採用されていた。)。本件キューポラにおける右ジャケットによる冷却系の概要は、まず地下水槽からジャケット冷却用ポンプで水を汲みあげ、以下ビニールパイプ(管)でつながったバルブ、給水温度計を通ってジャケット下部からジャケット内に冷却水が供給され、ジャケット上部から出た排水が安全弁(バルブ)を通り(安全弁の付近に蒸気抜きが設置してある。)、いったん上部タンク(鉄箱)に入ったのち排水温度計を通って再度地下水槽に戻る、というものであるが、上部タンクに入った排水の一部がポンプで本件キューポラ最上部の陣笠と呼ばれる顕式除塵装置上に導かれて流され、排水口に捨てられ、また別に前記地下水槽に排水が戻される直前にパイプに分岐をもうけて排水の一部が浴場に送られる。このため、地下水槽には水を補給する給水装置(水道)がつけられ、水が一定量に保たれるよう給水され、一定量に達すると自動的に給水が停止する装置が取りつけられている。一方、地下水槽の水を汲み上げる前記ポンプからジャケットに向うパイプに分岐をもうけて別の水道による給水配管が設けられているが、この水道によるジャケットへの給水は、専用のバルブをもうけてそれを開閉することによってされる構造になっている(地下水槽内への水道による水の補給が自動的にされるのとは異なる。)。

ところで、右ジャケットは、大気圧のもとにおいて冷却水が循環するように設計されたいわゆる開放容器であって、圧力容器ではない。本件キューポラには、「排水パイプにはバルブ、コック類、開閉出来るようなものは付けないで下さい。締め忘れて炉体の冷却水が蒸気化して危険です。」との記載のある説明文もそえられている。しかし、実際にはジャケット上部から出た排水パイプに安全弁(及び蒸気抜き)が設置されていて、上部タンク(鉄箱)に入る排水量を調節できるようになっている。右上部タンクは、本件キューポラとその横に設置されていた四トンキューポラの共用に供せられ、四トンキューポラから出た排水パイプにも上部タンクに入る寸前に安全弁が設置されており、本件キューポラの安全弁と四トンキューポラの安全弁を必要に応じて開閉して上部タンクに入る排水を調整しうるようになっている。右各安全弁(及び蒸気抜き)は第一審原告会社が設けたものであるが、この操作を誤ってキューポラ操業中に安全弁を閉めるようなことがあると、冷却水の循環が不十分となり、または停止し、ジャケット内の冷却水が炉内の燃焼による高熱で熱せられて蒸気化し、ジャケットに本来予定していない圧力が加わって破壊する危険を生じる。しかし、もともとジャケットは圧力容器でなく、開放容器であるから、ジャケットを構成する鉄板の厚さ、熔接部などについても、圧力容器、圧力配管等の場合に要求される耐圧強度を備えることは要求されるものではなく、開放容器として安全に使用しうる強度を具備していれば、構造上の欠陥はないとすべきものである。

さて、本件キューポラの炉内でコークスを燃焼させた場合の炉内温度は摂氏一八〇〇度程度(以下、摂氏を略す。)に達するが、ジャケット内を正常に冷却水が流れている限り、炉体を構成する内筒の鉄板の炉内側の面(鉄板がそこに張りつけたれんがに接する面)と同鉄板の外側の面(ジャケット側の面)との温度差は約一二・二度炉内側が高い程度であり、かつ、右内筒鉄板の外側の面とジャケットを構成する外筒鉄板との温度差は内筒側が約四七・四度高くなる程度であり、結局、本件キューポラを構成するジャケット外筒鉄板と炉体内筒鉄板炉内側の面の温度差は右二つを加えた五〇度ないし六〇度程度にとどまるものである(《証拠省略》のうちには、炉内の燃焼部の温度を一八〇〇度、ジャケット内の冷却水の温度を六八度とした場合に炉体内筒鉄板が右二つの温度の算術平均である九三四度に達するとする部分があるが、鉄板が九三四度にも達すれば、とうてい内部で高熱の溶解を行う容器としての機能をはたし得るものではなく、一般に右のような容器を水で冷却している場合には、その冷却水が正常な状態で存在する限り、熱の伝導率が高いため容器自体の温度はあまり上昇しないものであり、本件キューポラについてもこの原理は当然にあてはまるから、右《証拠省略》はとうてい採用することができない。)。したがって、本件キューポラ操業時の炉内の高熱により鉄板に温度差を生じ、膨張、収縮を繰り返して鉄板にいわゆる時間疲労の現象を生じることは当然にあるものの、その時間疲労は問題にするほど大きなものではない。ただ、容器自体に成型不良、熔接不良等の欠陥があると、その弱い個所は時間疲労の影響をうけやすく、容器にき裂を生じることも十分にありうる。

ところで、本件キューポラを構成するジャケット、炉体内筒等の鉄板の素材自体の性質に欠陥はない。

本件キューポラを構成する鉄板の厚さはほぼ一〇ミリであるが、この厚さの点において本件の爆発事故と結びつく欠陥はない。(第一審原告らは、第一審原告が第一審被告に本件キューポラを注文するにあたり、鉄板の厚さを炉体内筒につき一五ミリ、その他のジャケット部分につき一二ミリと指定したと主張するところ、)第一審原告会社が本件キューポラを注文するにあたり第一審被告と折衝したさい炉体内筒の鉄板厚を一五ミリ、その他のジャケットの部分のそれを一二ミリとすることを第一審被告関係者と検討したことは確かにある。しかし、当時キューポラ委員会という権威のある団体によって本件キューポラ程度のキューポラの鉄板厚は八ミリで安全であるとされ、また一般にも同じように考えられており、第一審被告もその考え方にしたがってキューポラを製作販売していたものであり、本件キューポラについて鉄板厚を一五ミリ、一二ミリとすれば特別な仕様のキューポラを注文したことになるところ、第一審原告会社が特別な注文をした形跡はなく、第一審被告会社もまた特別仕様のキューポラの販売を承諾した形跡はなく、結局鉄板厚の点は検討したにとどまり、本件キューポラの売買契約の内容とはならなかったものである。そして、鉄板厚の点に関する約定の有無いかんにかかわらず、本件キューポラの鉄板厚が一〇ミリであることによる操業上の危険は何もなく、また第一審被告が当時販売したキューポラが鉄板厚の不足に起因する事故を起こした事例もなく、本件キューポラの鉄板厚が一〇ミリであったことは本件の爆発事故には結びつかないものである。

次いで、本件キューポラのいくつかの屈曲部、たとえばジャケットの上部のふた板と内筒との接ぎ目、あるいは底板と内筒との接ぎ目などの部分は二つの鉄板を熔接で接着させている。健全な熔接は、二つの鉄板を互いの鉄板の肉厚と同程度の強度に結着させることであり、まず右肉厚に相当する溶着金属が得られるように二つの鉄板の端部に開先をとり、そこに溶着金属を肉盛りするようにして二つの鉄板と溶着金属とを溶着させて強度を保つものでなければならない。ところが、本件キューポラの熔接部においては、接ぎ合わせる二つの鉄板の各端部の間隔が一様でなく、隙間に広狭があり、かつ熔接を効果的に行うための接手の開先もとられていないところがある。そのため、たとえばふた板と内筒との熔接部の一部において顕著なように、二ないし三ミリ程度の薄い層の溶着金属だけで二つの鉄板を外面から軽く覆っている状態の個所、すなわち二つの鉄板が端部で溶着金属と融合して鉄板と同程度の肉厚となることなく薄い溶着金属だけでつながれ、溶着金属の及ばない鉄板端部相互間に僅かではあるが空間ができている状態の個所があり、このような個所では、熔接の特質といってよい溶け込み(溶着金属が母材の接合部に融和浸透する現象)が不十分であり、あってはならないオーバーラップ(溶けない溶着金属の端部が母材端部の表面に重なる現象)もみられる。その結果、極端にいえば、熔接部のいくつかにおいては、溶着金属の薄い層のみでその部分にかかる全体の力を支えることになり、こうした部分においては鉄板の厚さをいくら増しても接合部の強度を増すことにならず、逆に、こうした溶け込み不十分な個所に応力の集中が起こりやすく、とくに繰り返し荷重や交番荷重をうけるときは、破壊を起こしやすく、またオーバーラップの部分にも応力が集中し、割れが発生する原因になりやすい。さらに溶着金属の断面に無数のブローホール(溶融金属内のガスが外に出る暇がなく残留して生じた球状の穴)が発生しているが、こうしたブローホールは熔接部の機械的性質や気密性を悪くするものである。要するに、右のような熔接不十分の個所には本件キューポラの操業による時間疲労が集中的にたまりやすく、その結果そこにひび割れ、き裂を生じ、冷却水が洩れる現象が起こりやすくなる。すなわち、本件キューポラの内筒鉄板とジャケットの外筒鉄板は前記のとおり操業時にある程度の温度差を生じるのであるが、温度の高い内筒鉄板の伸縮量は外筒鉄板のそれより大きく、操業ごとに熔接によってつながれたジャケットのふた板と底板を押し、また引くという作用を繰り返し、前記のようにぜい弱な熔接部に影響を及ぼし、そこに集中的に時間疲労を生じ、ひび割れやき裂を生じて水漏れの現象を起こすことになる。ただし、熔接部がぜい弱であることによって起こる現象は右のような水洩れであり、熔接部がぜい弱でひび割れやき裂を生じるからといってただちに本件爆発事故のような事故を生じるものではない。前記のとおり、本件キューポラのジャケットは開放容器であって、耐圧容器に要求される耐圧強度を保持するまでの必要はなく、熔接部も熔接によってつなぐ鉄板と同程度の強度を保ち、主として水洩れを防ぐ機能を果せばよいのである。熔接は、できれば二重、三重に行うことがのぞましいとされるが、これは、冷却水がひび割れ、き裂を通じて炉内に洩れ、溶湯の温度、酸化程度に影響し、製品の出来に悪影響を及ぼすからである。キューポラ関係の専門家も、昭和三六年一一月提出の原稿を記載した文献において、ジャケットからの冷却水の漏洩が爆発事故をひき起こすとはまず考えられず、実例としても皆無である(爆発事故の実例がひとつあるが、これは、ジャケットの冷却水が熔接部のひび割れ、き裂により炉内に漏洩して生じた事故ではなく、別の原因により炉内の溶湯が炉内から外に流出し、ジャケット内の水を蒸気化して爆発にいたらせたというものである。)旨の報告をしている。もちろん、本件キューポラにおいて、たやすく水洩れを生じることは好ましくなく、本件キューポラ販売当時、一般にこうした水洩れ防止の点も当然考慮して本件キューポラ程度のキューポラの鉄板の厚さは熔接部も含めて全体として八ミリ程度は必要と考えられており、第一審被告会社も本件キューポラの鉄板厚を一〇ミリとしているのであるから、熔接部の一部に厚さが二ないし三ミリ程度しかなく、しかも溶解金属と鉄板との融合が不十分である個所があるということは、本件キューポラに欠陥があるというを免れないが、この欠陥に起因するひび割れ、き裂による水洩れによってただちに本件のような爆発事故をひき起こすものではないことも前記のとおりである(本件爆発事故の原因が右の熔接部の欠陥にあるかどうかの点は、さらに別に検討すべきものである。)。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

四  次いで、本件爆発事故発生当日の本件キューポラの操業及び爆発事故の状況について検討する。

《証拠省略》を合わせると、次の事実が認められる。

本件キューポラは、熔接部に前記のような欠陥があるものの、第一審原告会社は、本件キューポラ設置以来爆発事故発生までの約六年間、本件キューポラを問題となるような事故なしで使用して操業した。右の六年の期間は、通常の操業をした場合における本件キューポラの耐用年数にほぼ近いものである。昭和四一年二月三日から爆発事故発生当日の昭和四二年七月二八日までの本件キューポラの使用状況は原判決別紙キューポラ使用状況表の関係部分(五トンキューポラの欄)に記載されたとおりであり、それ以外の期間についてもあまり変わりのない頻度で使用されてきた。この使用頻度は、第一審原告会社が本件キューポラとともに使用してきたもと三トンキューポラ、のちの(爆発事故発生当時の)四トンキューポラの使用頻度に較べると少なく、通常よりはやや余裕のある使い方をしてきたものであり、したがってみかけは耐用年数に近くなっているものの、なお相当の時間の操業をしうるはずのものである。このように、使用頻度は若干少ないものの、第一審原告会社は、約六年間本件キューポラの使用を継続してきたものであり、その間、熔接部がぜい弱であることに起因するとみられる事故は発生していない。本件キューポラの熔接部は、みかけにせよ耐用年数に近い約六年間の使用に耐える程度の強度は維持してきたものである。ただし、本件キューポラは、ときどき水漏れを起こしたことがあり、そのつど第一審原告会社において補修して操業をつづけた(この水漏れが、ただちに本件爆発事故のような事故につながるものでないことは、前記のとおりである。)。本件爆発事故の起こった数日前にも、第一審原告会社は本件キューポラの羽口円筒と内筒との熔接部から水漏れしているのを発見し、羽口円筒を二か所取り替えて熔接修理し、円筒の炉内壁に張る耐火れんがを張り替えたことがある。

ところで、第一審原告会社においては、本件キューポラの操業は、通常ならば、鋳造工場長の真鍋健太郎ないしそれに代る職長の水本が技術設備担当の責任者となって、これを行うこととされていたが、本件爆発事故発生当日は、右両名とも、その数日前から引きつづいて欠勤していた。この両名が欠勤した場合の本件キューポラの技術設備担当責任者の定めは明確なものがない(第一審原告会社関係者も、従業員の竹内憲治であるという者と、常務取締役である第一審原告本間博であるという者とがある。)が、明確な定めのないままに竹内憲治が現場における実質上の操業責任者となり、かつ、第一審原告本間博が常務取締役としての地位に基づき竹内を指揮監督し、また実際の仕事の一部に直接従事して、本件キューポラの操業を始めた。竹内は、工業高等学校を卒業した当時一九歳一一か月の若年者で、第一審原告会社入社(昭和四二年五月九日)後まだ三か月に足りない者であり、真鍋のように特別の資格を有するわけでもなく、技術設備の責任者として本件キューポラを操作するのには、経験不足である。なお、事故発生当日、溶解関係の仕事は、竹内のもとにおいて、溶解班長兼仕上班長の堂前庄八らが、これを行った。

当日、午前一〇時ごろ、本件キューポラの炉内にコークスを入れ、バーナーに点火して操業を開始した。バーナーに点火した時点では、地下水槽の水を汲みあげるポンプは作動させず、ポンプのすぐ後のジャケットに通じる給水パイプに分岐して接続されている水道のバルブを開き、水道水のみによってジャケットに給水し、冷却する。午後一時ごろ送風を開始したが、この時点で右水道のバルブを閉じ、右ポンプを作動させて地下水槽の水(地下水槽に補給される水道の水を含む。以下同じ。)をジャケットに給水して冷却させる。午後二時ごろから鉄類を炉内に投入して溶解作業を開始した。まもなく初湯が出、以後繰り返し溶解を行った。なお、送風開始後炉内温度が上がった段階でポンプの後の水道のバルブを再び開いて地下水槽の水と水道水とを並行送水することがあるが、並行送水は停電その他なんらかの事情によりポンプによる地下水槽の水の送水に支障をきたすことを慮ってするものであって、つねにこれを行うものではなく、また並行送水しようとして水道のバルブを開いても通常はポンプによる地下水槽からの送水の圧力が水道水の圧力より高いので地下水槽からの水が流れるだけであり、本件爆発当時実際に並行送水が行われている状態にあったかどうか、はっきりしない(当審における第一審原告本間博本人尋問の結果中には、必らず並行送水をしつづけるかにみえる供述部分があるが、理論的にも疑問があるうえ、当審の右尋問結果中にも右とは異なる趣旨の供述部分もあり、さらに原審における同本人に対する尋問においては、同本人は、ポンプを作動させると同時に水道のバルブを閉める旨を明確に供述しながら、その後再び水道のバルブを開いて並行送水する趣旨のことはまったく供述していないのであり、これらの事情を合わせると、並行送水がつねに行われていたとはいいがたい。)。

ところで、当日、(はっきりした時刻は不明であるが、)ポンプを作動させて地下水槽の水を結水しはじめたのち、ポンプ付近の給水パイプから水漏れしているのを従業員が発見し、操業を一時中止して水道屋を呼んで修理させることも考えたが、時間がかかるため、応急処置として、溶解班に属する杉本豊蔵がパイプに布切れを巻きつけ、水がポトポト落ちる程度になったのをみて、以後通常どおり操業をつづけた。右水洩れがその後の冷却水の給水に影響を与えたことはない。また、当日午後五時三〇分ごろ、本件キューポラの出湯口の取付口から湯洩れがあったので、堂前庄八らが一たん送風機を止めて作業を中止し、湯洩れの個所に粘土を張って補修し、五分ないし一〇分後に支障なく作業を再開した。このころまでに約四〇回、合計約二〇トンの溶解をしているが、このころに炉内に地金がひっかかるという事態が起きた。しかし、これも、堂前が炉口に登って鉄の棒でひっかかった地金を突き落として解決し、次の溶解作業を開始することができた。

約四一回目の作業を行う当時まで、(前記パイプの水洩れは別として、)本件キューポラ自体から水洩れすることもなく、冷却水の循環に異常はなかったが、この作業途中で、堂前は除塵装置すなわちいわゆる陣笠から流れ落ちる水の量が通常よりかなり少ないように感じ、これを手にうけて確かめた結果、平常の流量の約三分の一程度の水量の排水が流れ落ちるだけであることに気づいた。そこで、堂前は、近くにいた第一審原告本間博常務取締役に右のことを知らせ、二人で地下水槽に原因を調べに行った(このとき、両名とも、地下水槽内の貯水量、地下水槽内への給排水の状況だけを調べに行っており、地下水槽の水を汲みあげるポンプの後の水道による並行送水がされているかどうかを確かめようとしていない。両名とも、当時並行送水はされていないと理解していたようにうかがえる。)。地下水槽において、第一審原告本間博は、地下水槽に水を補給する水道水の量は平常と変わりのないように感じたが、地下水槽にジャケットからの排水を注ぐ排水口から出る水の状態になんらかの異常があるように感じた。そこで、同第一審原告は堂前に懐中電灯を持ってくるように指示し、まもなく堂前が持って来た懐中電灯で排水口を照らしてみて、両名とも、排水口から蒸気まじりの水が出ているのを確認した。これは、すくなくとも、ジャケットを中心とした冷却系水の循環が十分に行われず、ジャケット内で冷却水の温度が異常に上昇し、一部は蒸気化していることを示すものである。ところが、堂前は、とくに危険が切迫しているとまでは感じず、じ後の処置は第一審原告本間博にまかせるつもりで、自己は作業現場へ帰るべく歩き出した。一方、同第一審原告も、堂前に対して危険回避の措置をとるよう指示するとか、付近にいる者に危険を知らせて避難させるとかのことをすることもなく、ただ自己が本件キューポラの送風機を止めて炉内温度を下げようとして、堂前の後からついて行くような形で歩き出したところ、その直後に突然本件キューポラが爆発した(右の爆発発生の少し前から爆発時にいたる状況については、原審において、第一審原告本間博と証人堂前庄八が供述しているのであるところ、両名の供述はかなり食い違っているのであるが、同第一審原告の供述は、第一審原告会社において事故原因調査の依頼をした石野亨に対して行った事故状況の説明、あるいは当審における同第一審原告本人尋問の結果とかなり矛盾する点があるのに対し、堂前の証言が疑問点を若干残すとはいえ詳細な反対尋問にさらされてもほぼ前後一貫したものであることなどを考えると、ほぼ右認定にそう堂前の証言を右第一審原告の供述より信用しうるものというべきである。)。もっとも、第一審原告本間博と堂前が歩き出した直後に爆発事故が起こっており、結果的には、両名が危険回避の機敏な措置をとっていたとしても、爆発事故の発生自体を回避することはできず、ただ、付近の者をす早く避難させることによって損害の拡大を僅かでも防ぐことができた程度にとどまる。

ところで、事故の翌日に現場で警察官が検証した結果、その他事故原因調査等によって、本件キューポラは、爆発により炉底の取付金具の熔接部が壊れて炉底が落下し、羽口円筒の熔接部も数日前に第一審原告が前記の熔接補修をした個所は持ちこたえていたがその他は大部分が壊れ、かつ内筒の鉄板の熔接部のぜい弱とみられる部分が壊れてそこを中心(頂点)として同鉄板がアコーデオン状の波型に外側(ジャケット側)から内側(炉内側)に圧縮されて変形していたなどのことが明らかになっている。また、本件キューポラのジャケットから上部排水タンクに通じるパイプに取り付けてあるバルブ(排水タンク横のバルブ)が「閉」に近い状態となっており、この状態のバルブに爆発時に鉄片が衝突してバルブを三十度の角度に曲げたため、バルブは右の「閉」の状態から僅かに「開」の方向に動く程度であることが確認されている(第一審原告本人本間博は、原審、当審での本人尋問において、事故の翌日、警察官らが到着する前に現場に来た労働基準監督署の係官が右バルブを回していたのを警察官が見つけ、証拠湮滅にあたるから告発する旨述べていた旨供述するが、そのような事情があれば現場検証をした警察官の作成した鶴羽検証調書にその旨の記載があってしかるべきであるのに、鶴羽検証調書にこれをうかがわせるような記載はまったくなく、また、右供述のようなことがあったとすれば、事故後は開閉いずれの方向へも回せたバルブを閉の状態とし、これにあえて鉄片等をぶっつけて約三〇度の角度に曲げてほとんど動かなくした、といったような手の込んだことでもしない限り、説明がつかないが、何者かがそのようなことをした形跡のあることをうかがわせる証拠もなく、右供述部分は措信しがたい。あるいは、第一審原告らは、右バルブが内ねじ式であるのを警察官において看過し、開の状態にあるバルブを閉の状態にあると錯覚したという趣旨のこともいうが、鶴羽検証調書をみれば、警察官は、慎重な調査の結果バルブが事故当時閉じられていたことを確認したものであることが十分に読み取れるのであって、第一審原告らのいうところは採用しがたい。)。当日、本件キューポラの冷却系のバルブを操作していた者は現場における技術設備担当の責任者である竹内憲治であり、ただ同人が臨時的な責任者であるため第一審原告本間博常務が竹内のしたバルブの開閉をチェックしていたが、右約四一回目の操業にあたり、竹内が右排水タンク横のバルブ操作を誤り、バルブを「閉」の方向に回し、右第一審原告もバルブ開閉が正常でないのを見落した。これによって冷却水の循環が不十分となり、バルブを通って排水タンクから除塵装置へ流れる水の量及び排水タンクから地下水槽に戻る排水量が少なくなり、また、循環不全によってジャケット内の冷却水が熱せられて高温となり、次第に蒸気化し(したがって、地下水槽へも蒸気まじりの水が排水された。)、蒸気化すると同時に体積ひいてジャケット内の圧力を増し、この蒸気圧によって冷却水が流入するのを次第に押し止めるようになって冷却水の循環をますます不全とし(なお、地下水槽内への排水の流入が減ることによってポンプによる地下水槽の水のジャケットへの給水量が減るが、この場合にかりに右ポンプの後の水道が開栓されて並行送水が行われうる状態にあったとしても、ジャケット内の蒸気圧の増加によって並行送水による給水を押し止めることに変わりはなく、冷却水の循環不全の状態をなんら解消するものではない。)、ついにはぜい弱な熔接部を破り、また炉内側の方向に鉄板を押し込むようにしてジャケットを破壊し、爆発した(《証拠省略》には、本件キューポラ内筒内壁のぜい弱な熔接部が炉内の高熱で歪んで一気に開口し、そこから炉内へジャケットの水が一気に流れ込み、炉内の高熱によってほとんど瞬間的に蒸気化して体積を膨張し、この高温高圧の蒸気が不良熔接個所を次々と破壊しつつ炉内からジャケット内に入り、ジャケット外筒外壁にぶつかって反射して衝撃波となり、内筒の鉄板を前記の波型に変形させる力を加えて本件キューポラを破壊した旨の記載があるが、これによると第一次的には炉内で爆発が起こったことになるところ、それならば爆発の瞬間は炉内の圧力がジャケット内の圧力に較べていちぢるしく高いのであるから、内筒鉄板を外に押し拡げるように破壊すると考えられるし、また従来爆発事故にいたらない程度の水洩れは第一審原告において発見して適宜補修しているのに、一気に大量の水洩れが生じた場合には、外へも流出せず外部からもわからないというのも不自然であり、さらに正常にジャケット内を循環していた水が一度に炉内に流出して蒸気化して爆発したとすれば、その前に暫くの間蒸気まじりの水が地下水槽に流れていたという現象、すなわちジャケット内の水の循環が正常でなくて一部蒸気化している現象と合わないのであるから、右甲号証の右記載部分はたやすく措信しがたい。爆発はジャケット内で起こったものとみるのが相当である。)。

ところで、給水、排水の温度を測定する給水温度計、排水温度計は、事故後に発見され、給水温度計は三三度で、排水温度計は四〇度で停止し、二本とも故障していたことが確かめられているが、各温度計の示す温度が事故発生時の給排水温度であることを示す確たるものもなく、また(第一審被告主張のように)温度計が事故発生前に故障していたことを示す確たるものもなく、右各温度計によって事故発生時の給排水温度が正常であったかどうかを知ることはできない。

以上のような事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

五  以上の各認定事実をもとに、本件爆発事故の原因ないし事故に関する責任の点について検討する。

本件爆発が本件キューポラのジャケット内で発生し、ジャケット内の冷却水の異常な温度上昇による体積の膨張ひいて圧力(蒸気圧)の増大に起因するものであり、そして、冷却水の温度上昇の原因が第一審原告会社従業員である竹内憲治が排水タンク棒の排水パイプのバルブを閉の方向に回し、同人を指揮監督した第一審原告本間博がこれを見落として冷却水の循環を不全としたことにある以上、第一審原告会社従業員ないし役員の本件キューポラの操業上の過失が本件爆発事故発生の原因となっているものといわなければならない。ただし、堂前庄八が本件キューポラの除塵装置から流れ出る排水の量が減少していることを知った時点(前認定の事実により、その時点より前から冷却水の循環不全が始まっていたことが推認できる。)から爆発が起こるまでに若干の時間の余裕があり、水の循環が不全であるとはいっても完全に停止したわけではなく、ジャケット内の冷却水の蒸気化とこれによる蒸気圧の増大もジャケット内の冷却水全部につき一挙に起こったものではなく、徐々に水が蒸気化し、しかも蒸気の一部は地下水槽の排水口等に不完全ながらも排出されていたとみられることを考えると、本件キューポラの熔接部が右にみたようにぜい弱でなくてなおしばらく持ちこたえていれば、第一審原告本間博らにおいて爆発事故回避の処置をとり、事故ないし損害の発生を回避することができたように推認される。もとより、本件キューポラのジャケットは開放容器であり、開放容器として本来有すべき安全性を具備していれば足りるのであり、本件キューポラの鉄板厚の点ではその安全性に欠けるところはないのであるが、熔接部においては鉄板よりかなり劣る程度の強度しか有しない部分があって水洩れを起こしやすいものであったのであるから、本件キューポラは熔接部において開放容器として通常具備すべき安全性を有しないところがあったというべきである。そして、羽口円筒と内筒との熔接部において、事故発生の数日前に第一審原告会社が水洩れを止めるため補修した熔接部は爆発にもかかわらず持ちこたえており、その他の大部分の熔接個所は破壊していることなど、前認定の本件キューポラの破壊の状況をみると、熔接部が開放容器としての強度を具備していなかったという本件キューポラの欠陥も早期における爆発事故の発生の原因を構成したものというほかなく、そして本件キューポラにこうした欠陥を生じたことは第一審被告の本件キューポラの製造過程に過失があったというべきものであり、この過失が前記の第一審原告会社側の過失と競合して本件爆発事故を生じたものとみるべきである。なお、第一審原告本間博と堂前庄八が地下水槽内の排水の異常を見つけたさい、危険回避の機敏な措置をとっていないが、前記のとおりこのことは爆発の発生自体には影響を与えなかったものであり、たかだか損害額の算定にあたり斟酌すべき事情となるにとどまる。

六  以上のとおりであるから、第一審被告は、本件爆発事故によって生じた損害を賠償すべき義務がある。

そこで、各被害者のこうむった損害と第一審被告が各第一審原告に対して支払うべき賠償額について検討するが、この点についての当裁判所の判断は、次に付加訂正するほかは原判決理由八の1ないし3すなわち原判決二一枚目表の(抹消した行も含めて)七行目から同二九枚目裏の(金額を二行に書き分けた分も二行に数えて(以下同じ。))一〇行目まで(その引用する原判決添付各別紙を含む。)の説示と同一である(ただし、当審で当事者となっていない第一審原告本間卯之助に関する部分を除く。)から、これを引用する。

1  原判決二二枚目表八行目「できない。」の次に「当審での第一審原告らの主張に徴して証拠を総合してみても、第一審原告会社の逸失利益の点について第一審原告ら主張の損害が生じたことを認めるには足りない。」と加える。

2  同二四枚目裏一三行目「原告会社」の次に「側」と加え、同行「過失」の次に「及び危険に気づきながら損害の拡大を機敏に回避しなかった過失」と加え、同末行「割合は」の次に「本件にあらわれた全事情を斟酌して」と加える。

3  同二六枚目表三行目「金員」を「(1)の」と改め、同四行目「と」の次に「(2)の」と加え、「四一万四九八〇円」の次に「((2)の四一万一五八〇円と三四〇〇円の合計)」と加える。

4  同二六枚目裏二行目の全部を「れ、ほかに第一審原告会社のうけた前記のような損害と別個独自に、個人としてとくに第一審被告に請求しうるほどの損害(精神的損害)が第一審原告本間弘一、同本間博に生じたことを認めるに足りる証拠はなく、同第一審原告両名の慰藉料請求は理由がない。」と改める。

5  同二七枚目表一〇行目「六〇年」を「六〇歳まで」と改め、同裏四、六、八行目の各「〇、六」を「〇・六」と改め、同一一行目「一一年目」の次に「(昭和五三年)」と加え、同行「六〇年」を「六〇歳」と改め、同一二、一三行目「〇、六×一八、〇二九三」を「〇・六×一八・〇二九三(昭和五三年の三一歳から六〇歳までの三〇年間のホフマン係数)」と改め、同一四、一五行目「〇、六×九、二一五一」を「〇・六×九・二一五一(昭和五三年の四九歳から六〇歳までの一二年間のホフマン係数)」と改める。

6  同二八枚目表二行目の次に改行のうえ次のとおり加える。

「ところで、竹内憲治には前記認定のような過失があり、同人ないしその相続人である第一審原告竹内博、同竹内キクヱが第一審被告ないし第一審原告会社に対して損害賠償を請求する場合には、損害額の算定にあたりその過失を斟酌されるべきものである。しかして、竹内憲治は本件爆発事故発生当日本件キューポラの技術設備の操業責任者として作業をしていた過程で過失をおかしたものであるが、同人は当時いまだ二〇歳に達しない未経験者であって、同人を責任者とし、しかも同人に対する十分の指揮監督をしなかった第一審原告会社の過失も重大であるから、本件の第一審原告竹内博、同竹内キクヱの請求について斟酌すべき竹内憲治自身の過失割合は二割五分とするのが相当である。この過失相殺をした結果、同人の右逸失利益は、二六七九万六二六六円となる。」

7  同四、五行目と同六、七行目の各「一七八六万四一七七円」を各「一三三九万八一三三円」と改める。

8  同二八枚目裏一三行目と一四行目の各「一七六二万四一七七円」を各「一三一五万八一三三円」と改める。

9  同二九枚目表五行目「二〇〇万円」を「一五〇万円」と、同六行目の二つの各「一〇〇万円」を各「七五万円」と、同七行目と七、八行目の二つの各「一〇〇万円」を各「七五万円」と改める。

10  同二九枚目裏八行目の次に改行のうえ「なお、第一審被告は、第一審原告南部歌子、同楠下キヌについては、右各慰藉料と右各第一審原告が受領した遺族補償年金、遺族特別年金とを損益相殺すべきであると主張するが、精神的損害に対する慰藉料は右のような年金によって填補しうる財産的損害とは性質を異にするものであって、損益相殺すべきものではない。」と加える。

11  同二九枚目裏九行目に引用する原判決別紙請求債権目録のうち番号5、6の原裁判所認容額らんの各「19,624,177」を各「14,658,133」と改める。

12  なお、原判決二七枚目裏八行目「二八八万一一二五円」及び原判決別紙全労働者年令別年間給与額一覧表(第二)の楠下方の分の「2,881,125円」は「三五六万一五二五円」、「3,561,525円」の誤り(計算誤り)であり、右二八八万一一二五円の数値をもとにした同人ないしその相続人の第一審原告楠下キヌ、同楠下行男、同楠下年弘、同中田孝美についての逸失利益ないしその相続分についての計算結果も誤りであるが、右各第一審原告はいずれも控訴または附帯控訴によって右の点につき不服を申し立てていないので、原判決の計算結果はこれを訂正しない。

七  以上のとおりであるから、原判決中、第一審原告本間弘一、同本間博の請求を棄却し、第一審原告竹内博、同竹内キクヱを除くその余の第一審原告らの請求を原判決理由九ないしその引用する原判決請求債権目録の原裁判所認容額らん、同Bらん掲記のとおり認容し、その余を棄却した部分は正当であるから、第一審原告会社、第一審原告本間弘一、同本間博の各控訴、及び第一審被告の第一審原告会社、第一審原告南部歌子、同南部弘幸、同南部ふぢの、同楠下キヌ、同楠下行男、同楠下年弘、同中田孝美に対する各控訴は理由がなく、これを棄却すべきものである。次いで、第一審原告竹内博、同竹内キクヱの請求は、前記損害金一四六五万八一三三円(原判決別紙請求債権目録の原裁判所認容額らんを前記六10のとおり訂正したのちの数額)及びこれに対する不法行為後の昭和五二年九月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきであり、これと一部結論を異にする原判決を第一審被告の控訴に基づいて変更することとする。訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、九二条、八九条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 渡邊雅文 裁判官岨野悌介は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 荻田健治郎)

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